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キボウノチカラ~オトナプリキュア‘23~ 第12話 「キボウノチカラ」 感想

キボウノチカラ~オトナプリキュア‘23~ 第12話 「キボウノチカラ」 感想

また未来で会えることを願って。

人間の負の感情の集合体であるシャドウとの最終決戦自体は、映画のミラクルライト風の展開で割とアッサリ片付いた感じもありましたが、その過程において闇から光へと回帰したブンビーさんや満と薫が、悪性だけではない人間の可能性を信じ、この街に生きる一人の人間として出来ることを全うするよう説く展開は熱い。人間の二面性を特別な立ち位置で見守る彼らだからこそ、その言葉にも特別な意味が生じる。

プリキュアであるのぞみ達を特別な存在ではなく、彼女たちもまたこの街に暮らす一人の人間として捉えるのも、この問題を一時解決したからと言って、それが根本的な問題の解決には繋がらないからに他ならない。如何に戦闘能力に秀でようとも人間の心の弱さが起因となってもたらされる絶望の未来を回避する為には、今を生きる一人ひとりが強くなり考え続けなければならないからだ。

そうでなければプリキュアの皆やベルが求める本当の意味での希望。そんな理想的で素敵な未来など訪れようはずもないのである。そして、それは此度の問題を解決したからといって一朝一夕で成し得ることでは決してない。だからこそ、今を生きる人間たちが一人ひとり考え続けること。伝え続けることが何よりも重要であり、エピローグ部分の多くをそこに割いたのもそのためなのだろう。

今回の一件からパルミエ王国の王が一人で全てを背負う体制からの脱却を図り、くるみ改めミルクが総理大臣として皆で形作る未来を目指すのを自分の道を見定めたことにしても、長きに渡って人間界側で学んだこととして絡めてきたのは良かったし、ひいてはそれがココとのぞみの関係性の集大成を見せることに繋がる見せ方になっていたの上手い運びだなと思えたところです。

ただ、絶望をもたらすのが人間ならば希望をもたらすのもまた人間。そして愚かな過ちを繰り返すのもまた人間なのである。今回の騒動から危機感を抱き未来を憂いて行動する人間もいる。しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるような人間もまた存在する。まして今回のシャドウ騒動はあくまでのぞみ街を中心に起こった世の中の多くの人間は当事者ですらない。

そして、当事者であった人間ですら時の流れと共に記憶を風化させて忘れ去ってしまう。それもまた紛れもなく人の性なのです。その人間の善性と悪性。賢さと愚かさ。希望と絶望といった相反する要素が、最後の方に詰め込まれており、特にラストシーンにそれが凝縮され象徴的な見せ方をされていたかなとも思います。あの不穏な気配漂う終わり方は賛否分かれそうですし。

ニチアサの方のプリキュアであったなら、あれは見せずにのぞみ達の前向き且つひたむきに頑張る姿を見せた上で、希望に溢れる幕引きになったと思うけど、あえてそうしなかったのがオトナプリキュアであり、悲しいけど現実的な締めになっているとも言えるのだろう。個人的にもやはり驚きとともに少しモヤッとする部分であったこともまた事実で。

しかし、それがあるから際立つ部分もある。人は過ちを繰り返すし学ばない。その愚かさが示されたからこそ、プリキュアの皆が示した考え続けることと、語り部としての決意を固める満と薫の伝え続けていく覚悟。その部分も映えるのだ。何よりこの繰り返しこそが人の歩みであり歴史。そして、それらを次代へ繋げていくことが、希望の未来へ至る為の唯一の道なのだから。

街の繁栄と衰退。その街で今を生きる大人になったプリキュアの面々。人の叡智と愚かさ、その二面性。それを軸に大人としての葛藤やしがらみ等も取り入れ、作中のみならずプリキュアシリーズの展望にも一石を投じる挑戦的且つ意欲的な一作だったと思います。今作の試みがシリーズにとっても明るい未来を切り拓く一助となってくれたら良いなと思わずにはいられません。

今回は他の何を置いてもココとのぞみの関係性が行き着くところまで行ったと。もうこれに尽きるのではないだろうか。公式作品でココのぞのここまでのガチプロポーズ展開が見られるとは正直思ってなかったし。結婚式を挙げるシーンまで描かれたのだから言うことはない。リアルに十数年越しの想いの結実なので、個人的に感無量になるシーンであったのは間違いない。

あとこれに絡んでミルクの存在感や役回りが顕著になったこと。より確立されたものになったことが嬉しかったし凄く印象的でもあった。

オトナプリキュアになってココとのぞみの関係を進展させようと後押ししてくれるようになった彼女ですが、ミルクが大統領になってパルミエ王国を完全な王政から共和制というか民主政へ移行させようと頑張るのは、シャドウ騒動からの学びも当然あるだろうが、それと同じくらいココの不自由を軽減させて、のぞみと一緒にいられる未来を作り出したい思いがあったのだろうと。

王であろうとプリキュアであろうと一人で全てを背負うことは叶わない。だから互いに手を取り合い、力を合わせて望む未来への道筋を切り拓いていくのだと。くるみとして学んだミルクの選択。そして、ココとのぞみの一つの到達点が、最終回及び本作で描かれたテーマを象徴する要素になっていたかなと。自分にはそう見えたのであります。

くるみはオトナプリキュアで本当に良い働きをしてくれていたなぁ。あとはやっぱり咲舞の二人が結ばれる世界がどこかにあってもいいと思う。

あのプリキュアたちが大人になった姿を描くというコンセプトで始まったオトナプリキュア。発表時の衝撃もさることながら、本編が始まって描かれる諸要素を実際に見て、本当に色々と色々考えさせられたし個人的にり思うところもあります。全てを手放しで絶賛できるというものではないし、目新しさや焦点を当てる題材故に穿った見方をしてしまっているところもあるかもしれない。

でも、なんだかんだ最後はテーマに基づいたメッセージを発信し、見せるところは見せてくれたかなと思います。一クールという限られた中での話作りだったので、やはり駆け足気味に感じたところや、もっと膨らませられたところもあったかと思うけど。こまちさん作の脚本でうららが舞台に立つ約束とか、こまちさんとナッツの絡みをもっと見たかったとか。

個別に願望を挙げ始めたらキリがない。ただ、上でも書いたように本作は20周年を迎えるプリキュアシリーズの今後の展望に対しても一石を投じる挑戦的で意欲的な一作という側面もあると思います。基本は一年でキャラや世界観が一新されながらも、次代へと想いを繋ぎ一作一作を積み重ねて希望に溢れる未来を模索し展開していく。そのシリーズが今後どこに向かっていくのか。

それを見据えた上でのコンテンツ展開でもあったのかなと個人的には思っている。賛否は出るだろうけど試みとしては面白かったし、色々な点での失敗や批判、負の感情が出ることも覚悟の上で取り組んだであろう本作の意気を私は買いたい。本流の方ではないだろう描写や話運び。当時の熱の再燃。なんだかんだ毎週楽しかったし充実した一クールをありがとうと言いたい。

次なる「大人」のまほプリも楽しみではあるけど怖くもある。そんな感情を抱えながら20周年を迎えるプリキュアシリーズを来年も楽しんでいきたい!