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キボウノチカラ~オトナプリキュア‘23~ 第8話 「ワタシノマチ」 感想

キボウノチカラ~オトナプリキュア‘23~ 第8話 「ワタシノマチ」 感想

人々の情熱や願いが積み重なり生まれた街に芽吹く確かな息吹。

伝統ある老舗和菓子屋の娘ということもあり、作中主要キャラの中でも特にその地に根ざして生きている印象が強いこまちですが、同時に苦難や挫折に直面しながらも少しずつ前に進んでいる他の皆と異なり、こまちは停滞した時間と空間に囚われている感じも強かった。地域貢献に携わりながら実家の手伝いと進まぬ小説の片手間にエッセイを執筆するという不安定さ。

思い描いた通りの姿とは言えずとも、学生時代に志した職に就いてその道を邁進する皆と違い、こまちの現状はどっちつかずの状態にあったとも言える。当時のような情熱を失い、だからといってのぞみ達のようにもがき苦しむこともなく諦観の念を持つに至った感じで。特別なことや刺激的なことなど何も起こらず、淡々と時間だけが過ぎ去っていく代わり映えしない毎日。

何かをしたい。何かを変えたいと思いながらも動き出せず、得も言われぬ鬱屈とした感情を心の内に溜め込む日々。自分自身も住んでいる街も何も変わらず時間だけが過ぎていくことに対して生じる焦燥感。生命の息吹や覇気を感じさせない息苦しく重苦しい様子。しがらみ等に縛られ足踏みする皆とは異なり、自由に動けるはずなのに動き出せない。無気力さからくる空虚な感じ。

それが大人になったこまちに感じた個人的な印象でもある。そんな今のこまちに対して、さなえお婆ちゃんが語って聞かせた街の歴史。その成り立ちに絡む街の象徴とも言える鐘の音の後押しと人々の情熱と営み。何もないように見えても確かにある小さな幸せ。その気持ちを大事に持ち続け、未来を夢見た人がいたからある今の街の発展。何もなく空っぽだった場所に根付いた生命の息吹と人々の笑顔。

そして、こまち自身が自分もその街の一部であり、かつての人々と同じ気持ちを有していることを実感することで、何もなかった場所に情熱と息吹が芽吹いたように、空っぽだと感じていた自分の心に情熱と希望の光が灯ることで、こまちの目の前が開けて自分が築き上げていく未来への展望を。やってみたいことを見出す流れが絶妙でした。

変わらないと思っていた街は絶えず変化し続けており、そこには様々な人達の思いや願いが込められ複雑に絡み合い織りなされている。見えているようで見ていなかった目の前にある「特別」なこと。当たり前のように思っていた光景が、実はそうではなく人々の確かな情熱と息吹の上に成り立つ奇跡。スランプに陥り顔を伏せ殻に閉じこもっていた彼女だから見落としてしまった身近にある光景。

それに気が付き顔を上げて周りを見渡せば、こんなにも安らぎと希望に満ちた人々の息吹が周りに満ちている。この街で生まれ育ち地域に根ざした暮らしをしている今のこまちだから書きたいと思えた新たな題材。それが常日頃から目の前にあるもので、見え方や捉え方が変わった大人の今だから思い至れたという妙。込められた願いや情熱が果てない夢を現実にしてくれる。人や街に歴史ありということを改めて感じた今回のお話でした。

安らぎの緑の大地!キュアミント!チームの中でもとりわけ守りのイメージが強いミントですが、今回の話の題材と絡めた復活劇は見ものでしたね。ココが言っていたように本気になったミントは攻撃力も半端ないものを持っていますが、それはまぁ置いておくとして。これまでの迷いや戸惑う心を一気に振り払うような立ち回りと戦闘後の爽やかさ。

ナッツ不在でもこういう気持ちに至れて安堵した反面、少し物悲しい気持ちもあったりする複雑な心境。ともあれこまちの現況と街を絡めた話運びをする上で、さなえお婆ちゃんがあまりにも適役すぎたところもあるので致し方ない。

今回の中である意味一番驚いたのが、街の裏ボス的な存在として認知されていた雪城さなえ、もといさなえお婆ちゃまの登場だろう。オトナプリキュアは5とSSが繋がった世界観だと思っていたけど、ここに来てまさか初代の要素を取り入れてくるとは。これがファンサービス要素なのか今後初代のなぎほのが出てくる前フリなのか否か。個人的にはこれくらいの仄めかすような感じで留めて、直接的な登場はしない方がいい気もするがはてさて。

初代プリキュア本編の中でも語られていたさなえお婆ちゃんの過去と生い立ち。そして街の成り立ちの経緯。全てを見届けてきたさなえお婆ちゃんは、まさに街の生き証人でもあり歴史の語り部。のみならず初代のなぎほのを始めとして、プリキュアシリーズ全てを見守るかのような立ち位置に収まっているから凄い。今回の話の内容的にもはまり役と言えるだろう。

雪城邸の外観と表札が映し出されたときは、得も言われぬ万感の思いが込み上げてきたもの。人々の情熱、強い願いと思い。それらを紡ぎ積み重ねてきたから存在するオトナプリキュアという作品。なぎほのが出てこなくてもこれだけの存在感を示せるのは、やはり凄いの一言に尽きる。いろんな意味で歴史を感じさせる一幕でした。