太陽のように力強く純粋で熱い思いが迸る。
阿智彦とフェスリダ、人間界と魔法界、チュッピとマナマナ。各々の欲望や各陣営の思惑が渦巻く中で、ジェニファーだけは誰よりも純粋でプリマジを愛し、プリマジを通して皆に愛を届け笑顔にしたいという幼少期から変わらぬ一途で純粋な夢を貫き通していた姿は、周囲の状況や歪んだ大人達の思惑が見え隠れするからこそ純然たるものとして映り込む。
そして、それ故に反転した際の反動もまた突き進んだものになってしまうのだ。これまで断片的に描かれるのみであったジェニファーの境遇。日本の父親と評する程に親愛の念を向けていた阿智彦との出会い。プリマジスタとして彼女が辿ってきた経緯。幼少期ジェニファーからラスボスへ変貌を遂げる様を、各陣営の欲望入り乱れる渦中で描くからこそ際立つところも確実にありました。
相棒であるリューメを奪われてもなおジェニファーがプリマジと向き合うことが出来ていたのは、日本の父である阿智彦の言葉によるところが大きかったのだが、リューメと同じく自分を太陽と称し、自分が抱く夢を理解し共感してくれると思っていた相手に裏切られ、残されていた支えを失ってしまえば、ジェニファーが根底から崩れてしまうのも無理はないのです。
今までの自分が思い描いた夢、プリマジスタとしての自分を全て否定されたも同義だからだ。信頼を寄せ自分の夢に共感してくれていると思っていた「父親」が、実はかつてのライバルとの確執と劣等感から復讐に心血を注ぎ、プリマジもプリマジスタとしての自分もその復讐の為の手段と道具でしかないと突きつけられる。それがジェニファーにとってどれほど辛く酷い仕打ちであるかは言うまでもない。
それでも阿智彦が自分の真に思っていることをジェニファーに対し正直に打ち明けていたら、もしかしたらジェニファーも同調とは行かずとも阿智彦に付いたかもしれないし、それは阿智彦のやり方を否定したあうるにしても同じことが言える。結局ジェニファーの「純粋」さに対し、真摯に向き合うことなく「不純」で以て答えたことが、全ての誤りであったことは疑いようもないのです。
最愛のパートナーを失い、親愛を向けていた父親に自分の在り方と歩んできた軌跡を否定され、全てを失った感覚に陥ったジェニファーが、自暴自棄気味に太陽のエレメンツに破滅を望むのも無理からぬ情勢が出来上がってしまったわけで。イカロスではないけど太陽に焦がれ、王道でも邪道でもない自らの覇道を求めた阿智彦が、焼き尽くされてしまうのは皮肉としか言いようがない。
絶望し虚無感に包まれラスボスのような存在へ転じてしまったジェニファー。その彼女に対し求められるのは、やはりジェニファーが否定されたと思っていた彼女の夢が間違ってなかったと。愛を届け皆を笑顔にするという夢の尊さと希望に溢れる様を、プリマジを通して彼女に見せつけることが肝要で。そして、それを成せるのは彼女に憧れ夢を見出した陽比野まつりを始めとするプリマジスタ達しかいないのだ。
自分の根幹を成す部分を否定され根底が崩れ去りプリマジに向き合う意義を喪失したジェニファー。そんな彼女に対し「あなたにとってのプリマジとは何か?」というテーマを、今度はまつり達が問いかけるという構図は中々に熱いものがあると思います。今一度ジェニファーにとってのプリマジとは何か。その光明を彼女にもたらすことが主人公としてのまつりの役目であり、一年目の最後のテーマになるのかもしれない。
ここで満を持してのジェニファーの新曲投入は滾るものがありますなぁ。ラスボスの風格を漂わせる圧倒的な存在感、どこまでも熱く純粋な熱量を感じさせる炎を纏った剣舞の洗練されたスタイル、炎によって生み出される陰影を駆使したステージ構成と演出が、心をかき乱され不安定に揺れるジェニファーの心情をダイレクトに表現しているように映り込み引き込まれてしまう。
ジェニファーの前曲「wonder jewel」が希望や光を感じさせるものなら、新曲「Lux Aeterna」は光と表裏一体で存在する影や闇を感じさせる楽曲に仕上がっている印象を受けました。直訳するなら永遠の光、輝きを意味する楽曲タイトルなのに、その裏に介在する要素を感じてしまうのも本編の清濁が入り乱れた描写あればこそのものなのかもしれない。
王道でも邪道でもなく自分よがりな覇道を征こうとした御芽河阿智彦の目論見が、一日と持たずに一瞬で瓦解してしまっているのは面白い。掌握していたつもりのジェニファーに反旗を翻され狙撃されるという絵面のインパクトも相まっての面白さではあるが、ジェニファーとしては事ここに至っても自分の絶望に思いを馳せることもなく、恍惚の表情で自らの復讐や正しさを示す為の道具として見る阿智彦に対し、三行半を突きつける意味合いもあっての行動なのかなと。まぁ夫婦ではなく疑似親子だけどそこは置いておくとして。
「愛があるから苦しくなる。プリマジがあるからみんな苦しむ」という覚醒ジェニファーの台詞は、今まで彼女がまつり達に対して語っていた夢と真逆の意味であり、それだけ彼女が抱いていた強く熱く純粋な思いが反転し冷え切ったものになったことを象徴するフレーズでもあったと思います。
このジェニファーに対しまつり達がどう向き合っていくことになるかは当然見ものですが、ある意味で彼女にとって切っても切れない間柄にある阿智彦が、この終盤でどのような役回りを果たすことになるかも注目して見ていきたいものである。