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キミとアイドルプリキュア♪ 第24話 「タナカーンの夏やすみ!」 感想

キミとアイドルプリキュア♪ 第24話 「タナカーンの夏やすみ!」 感想

日々誰かの為に働く勤め人たちに一時の安らぎと癒やしが与えられますよう。

歴代シリーズでも妖精主体の回はありましたが、焦点の当たっていた田中さんことタナカーンが会社員めいた風貌をしている上に、ワーカーホリック気味でどこか哀愁を纏ったような雰囲気を醸し出していることもあり、本来の視聴層である先輩たちより親御さんや大きなお友達の共感を呼び起こしそうな独特な空気を形成していて味わい深い内容に仕上がっていた。

サブタイトルにもあるように日々労働に勤しみ街の平和を守ることに人知れず貢献しているタナカーンの貴重な休みの姿を見ることが出来たのもさることながら、それ以上に同じく労働に勤しみながらも報われることなく、ひとり心を擦り減らし限界を迎えつつあるザックリーとなな/キュアウインクが交流する描写を重ねることで、誰かに認められ必要とされることの意義を描き出していたのが印象深い。

心休まる一時を満喫しながらも、自分がいなくても事が回ること、もう自分は必要ないのではないかと感じたタナカーンの心境にもあったように、やはり誰かに必要とされることや自分のやったことが認められて報われること。それらの実感を得られるかどうか。つまるところ充実感や生き甲斐と言ったものを得られるかは生きる上で必要不可欠のものであり、それがあるから心は満たされ均衡を保つことが出来る。

それは何も勤め人に限った話ではなくアイドルにとっても同じことが言える。如何にきらびやかな舞台に立ち歌って踊ろうとも、それを見てくれる人や認めてくれるファンがいなければ、たちまち心は空虚さに満たされ自分がやっていることの意義を見失ってしまう。自分がやったことに対して何かが返ってくる。自分の行動が誰かの役に立ち貢献できたと実感出来るからこそ人は日々頑張れるのだ。

それが叶わずに一人で必死に頑張り続けながらも誰にも承認されず報われなければ生き甲斐も活力も失われるは世の必定。そして、頑張っているのに自分ではどうにもならない鬱屈した感情を抱えながらも自力で現状を打開できない状況に置かれたのなら、人は他者に救いや癒やしを求めてしまうのも必然なのである。ザックリーが蒼風なな/キュアウインクにそれを見出したのも自明の理と言える。

人は心身ともに衰弱し疲弊しきった状態では正常な判断が働かなくなる。弱りきってどうにもならない時に自分のことを気にかけてくれて見てくれていると実感できる相手が目の前に現れたら。本来は仲間であるはずの上司にすら蔑ろにされる自分に寄り添い理解や共感を示してくれたのなら。そのうえでかつて仲の良かった同僚が見たものを理解できたとしたのなら。

そこに現状を打破する希望の光を見出すのも無理からぬことなのだ。副業も込みで色々な業務を兼業しながらも、自分のことを気遣い力になってくれるアイドルプリキュアの皆が傍にいて、またやっぱり彼女たちには自分が必要なんだと改めて実感できたタナカーンと、自分の仕事と豪語することをやりながらも誰にも認められず顧みられることもないザックリー。

組織や大切な人の為に見を子にして身を粉にして働きながらも、対極的とも言える両者が置かれる環境と心境を重ね合わせることで、誰かに必要とされることや認められることの重要性。そこから生じる充実感や生き甲斐が如何に大事なものであるのか。アイドルではなく極めて一般的な勤め人の立場と視点から本作のテーマに連なる大切な要素を描き出していた回だったのではなかろうか。

実質ワンオペ業務で疲れ切っているザックリーはもちろんのこと。アイドルプリキュア側もタナカーンがいなければ色々なことが回らなくなり崩壊してしまいかねない実情が改めて浮き彫りになっただけに。日の光を浴びる機会は少ないかもしれない。スポットライトが当たることはそうそうないかもしれないが、縁の下の力持ち的な存在として日々頑張る人たちがいてくれることの有り難み。その人達にとっても“キミ”がいるから輝ける現実があることを改めて感じた次第です。頑張るための休息、本当に大事。

予告の時点でななとザックリーの交流があることは分かっていましたが、予想していた以上に二人の交流に時間を割いていて、ザックリーの戸惑う姿や悪態をつきながらもななの対応に癒やされ惹かれる様子を丁寧に描いていたのが印象的でした。副題はタナカーンの夏休みという触れ込みでしたが今回の主題はこっちの方だったのではないかと言っても過言ではないかもしれない。

愚痴を言ったり気兼ねなく物を言い合える間柄だったカッティーがいなくなり、一人で全ての業務を請け負ってチョッキリーヌ様からは無茶な要求ばかりされ、成果を挙げられないが故に誰にも認められることなく心身ともに負荷を積み重ねてきたザックリーの近況や彼の心境は察するにあまりあるものがある。ここ最近徐々に心身を蝕まれる彼の姿は要所で描かれてきていたのが、今回は遂に決壊一歩手前くらいのところまで来てしまっていた。

それ故に彼に対して救いの手を差し伸べるが如く。敵対関係にありながらも彼の身を案じ、一人の人間として相対し親身に接してくれる蒼風ななの存在が。味方で上司であるはずの相手にすらまともに取り合ってもらえない自分を、敵なのに正面から見て意思の疎通を試みようとしてくれる相手がいることが、彼にとってどれだけ救いとなったのか。

心身を病み誰も顧みてくれないような境遇にあるほどに、誰かに対し救いや癒やしを求めてしまうのは人の性であるからして。偶像崇拝ではないんだけどギリギリの自分に癒やしと希望の光を与えてくれた彼女は、まさにザックリーにとって女神のような存在。戦闘時においても彼女のことが頭をよぎり戸惑いや抵抗感を覚えているところからして彼にとってどれだけ大きな出来事で影響を受けたのかということも窺い知れるというもの。

お姫様抱っこされて案じられるあたり完全にヒロインのような役回りになっている気もしますが、“キミ”がいるから輝けるという本作のテーマにあるように。かつてカッティーがキュアアイドルを始めアイドルプリキュアに救いの光を見出したように。今回は咄嗟に拒絶反応を示してしまったけど、ななから受け取った大切な何かを今度はザックリーの方から素直になって返してくれたのなら。

その双方向の交錯が生じた時に何が起きるのか。興味は尽きないのです。自らの言動に悔いる姿からしてもう完落ち一歩手前のところにいるような感じもするザックリーさん。キュアウインクが、アイドルプリキュアが荒んでいた彼の心を癒やし満たしてあげることは出来るのか。その動向が色々な意味で気になる。

滅多にない休日を満喫しながらも皆のことが気になって休みきれない我らがタナカーン。およそプリキュアらしからぬ会社員がただ体と心を休める一連の流れが、生々しくも新鮮な一幕として映りました。仕事人間で頑張ってる方が充実感を得られているところもあるタナカーンですが、決して無理することなくこれからもアイドルプリキュアとズキューンキッスを支えていってもらいたい。

タナカーンがいるからアイドルプリキュアの皆も後顧の憂いなく戦えるし活動する事ができる。マネージャー業もそうなんだけど私生活においても頼れる存在。アイドルと“キミ”の関係性はここにもあることが改めて伝わってきたよ。