隣の芝生(お兄ちゃん)は青く見える。
近いからこそ反発することもあるし、近いからこそ正しく向き合えないこともある。妹のひまりがアイプリとして頭角を現し、世間からも評価されていることを知りながらも、やっぱり兄のひなたにとっては、ひまりはおっちょこちょいで目を離せない危うさを残した妹であることは変わらない。
彼が必要以上に過保護になって妹の世話を焼こうとしたのも、本人の気質もさることながら自分の知る妹のイメージと周りが評価するアイプリとしての妹。そのギャップに戸惑いつつも自分が知るひまりにはまだまだ支えが必要で、自分も頼りになる兄でいたい。今までと変わらない兄妹としての形があることを確信したい思いがどこかであったのかもしれません。
ただ、ひまりの側からした兄の過干渉を鬱陶しいと感じてしまうのも無理からぬことで。アイプリとしても一応は独り立ちを果たしたし、一度はグランプリを制するという成果も出している。何もなかった頃の自分ではないし、自分なりにこうしたいとかこうなりたいと考えて、その為に色々なことを頑張ってここまで来たのです。誰かの導きがなければ何も出来ない子どもではないし、意思を持つ一個の人間だからこその反発。
それもまた至極真っ当な反応と言える。兄妹だからこそ加減なく全力で言い合うし主張もぶつけ合える側面もあるだろう。一緒にいることが当たり前で、当たり前だからこそその特別性に気付けない。ないものねだりは人の性とも言えるだろうが、身近で当たり前にあるものと意識することすらないが為に、今回の言動にどんな思いが込められているか。そこに考えを巡らせるまでに至れない。
だからこそ、ひまりとみつきの思いつきで実行した「お兄ちゃん交換」は、当たり前と思っていたものが当たり前なものではなく、特別なものであることを改めて意識するキッカケになるわけで。当人にとっては当たり前なものでも、他の人からしたらそうでないこともあるし羨むべきものであることも多い。自分にはないものを持つ人を羨み、また憧れてしまう気持ちも自然なものなのです。
青空兄妹が見せた過保護に過干渉。それを煩わしく思う気持ち。それらは当事者のひなたとひまりにとってはマイナスなものになったが、一方で星川兄妹にとっては憧れ羨むものになっている。何事も考えてからの八雲にとっては即座に行動に移せるひなたの行動力が。温和な兄に直接的に構ってもらえる機会が少ないみつきにとっては、兄にあれこれ世話を焼いて貰える良い意味で気安さのある兄妹関係が。
それぞれプラスのものとして星川兄妹の目に写り込んでいる。人や立場が変われば同じ者/物に対する見方や捉え方もまた変わるということで。それは妹の親友にして共にアイプリとして活躍するみつきから、ひまりに対する話を聞いたひなたや、親しい存在で全て知っていた気がしていた兄の意外な姿や気持ちを聞かされたひまりにしても同じこと。
いつもとは異なる視点で。いつもとは異なる相手から話を見聞きすることで気付けることが沢山ある。特定分野の才能や対人関係。自分にはないものを持つ人を羨み憧れを抱く気持ちを人として当然のものである。しかし、そればかりに囚われるのではなく、普段自分が気づきにくい当たり前の中にある大切なもの。特別に目を向けることで広がる世界もきっとある。
青空兄妹と星川兄妹。二つの兄妹関係と親友同士の関係性を軸に、人としてアイプリとして持つべき視点や物の捉え方。その大切さを考えさせられるのと同時に、素晴らしき兄妹関係の在り方を見ることが出来た回だったと思います。基本は誰に対しても丁寧な物腰のひまりが、ひなたを相手にしたときは割と辛辣で容赦ない等々。普段とは違う姿を見られたのも新鮮で良かったですな~。
みつきがひまりのことを大好きで思い入れが深すぎるということは、今までのお話の中でこれでもかというくらい描かれてきたことですが、兄の八雲にしてもひまりの兄ひなたに対する思い入れが深すぎることが今回改めて伝わってきてですね。星川兄妹の青空兄妹に対する思い入れの深さを、まざまざと見せつけられたような感覚に陥ってしまうのです。やっぱり兄妹は通ずるものがあるのですよ。
ひまりと一緒にいるときのみつきは、どちらかというとしっかりもので頼りにされることが多いと思うのですが、今回はそんな彼女の甘えたい願望と言いますか。年下として妹としての顔を見ることが出来たのも個人的には嬉しかったところです。なんだかんだで似た者同士なところもある星川兄妹。これからも憧れの気持ちを向ける青空兄妹と末永くお付き合いしていってもらいたいと切に願うのだ。