演劇発表を通して人間と狼の共存共栄の在り方に思いを馳せる。
アニマルタウンの演劇発表祭への参加を通じて人と狼の間に確かにあったかつての絆。そして、作中の人物にとって今後の共存共栄の在り方を改めて考えさせられる回でした。演劇部員の狐崎さんと狸原くんが良い意味で舞台の盛り上げ役に徹してくれていて、終始楽しい雰囲気が漂う劇中劇の様相でしたが、演劇の準備やステージで演じられた諸々の要素は今作の根幹に深く関わる重要なものに密に結びついていて。
烏丸さんが持ってきた古い文献に描かれていた人と狼の馴れ初め。棲み分けをしつつも両者の間に確かに存在していたであろう友情。そして互いを認め合い尊重する精神。日誌の執筆者と思しき昴という人間と、彼に救われた狼との心温まる触れ合いと安らぎのひと時。これらは視聴者目線で見ると実際に昔あった出来事で、当の狼がガオウであったことも容易に察するところではある。
それをいろは達の目線でも共有しつつ、今とかつての在り方の落差を今一度実感した上で、それでもかつて互いに信頼を置き仲良く共存していた狼たちとの関係性を、今後どのように実現していくか。かつてそれを成していた人間がいたという事実が、惑うこむぎやいろは達の背中を後押しし進むべき道への道標となってくれる。そんな意味合いが込められた舞台でもあったと思うところです。
狐崎さんが用意した本来の脚本通りであれば、人と狼は相容れない別の道を歩む終わりになるところを、こむぎが咄嗟に反応して否定したのもその表れかなと。実際にガオウと触れ合い、彼が抱く憎しみや悲しみの感情に直に触れ、その上で人と動物が共に暮す素晴らしさを。人と友情を育むことの意義を身を以て知るこむぎだから示せる答えが確かにあるのだと思います。
勿論こむぎが言うことは理想であって具体性は乏しいものなのかもしれない。それでも彼女らの願いに応える形で鏡石によって力を与えられ、言葉を話せるようになりて人と動物の架け橋たる存在に成り得た彼女にしか出来ないこと。ひいては人の姿を取りプリキュアとして覚醒したことの意義。ここへ来てそれが朧気ながらも見えてきたようにも感じる。
かつて存在した人と狼の良き関係性。願いを叶える鏡石=ニコダイヤの力を独占しようとした人間が、愚かな過ちを犯し狼達を絶滅に追いやったのならば、憎しみに駆られ怒り狂う狼達を鎮め償い救いをもたらすのも、ニコダイヤにより彼らと戦い向き合う力を与えられた人間なのだろう。そして、その緩衝材というか仲立ちをし双方を結びつける存在として選ばれたのが、人と動物の間に在るこむぎでありユキなのだろうと。
彼らの赦しを得てもう一度友好を結びたい。その願い自体が人間の独善的なものであることも承知しつつ、だからこそ両方の立場で物事を見るこむぎとユキが、本作で如何に特別で重要な存在であるのか。それも改めて際立っていたのではないだろうか。本作にぷりきゅあが何故人と動物の混成チームであるのか。その意義を示されていた劇中劇であったように思います。
そういう本筋の部分とは別に、演劇の依頼をされても釣れないユキだったり、彼女を説得する際のまゆのテンションの上がりっぷりだったり。メイクブラシに扮したワンダフルの面白姿だったりね。あとはやっぱり演劇部の狐崎さんと狸原くんを交えた普段とは少しテイストの異なる掛け合いが、とにかく楽しい演劇回でした。本筋の要素を差し込みつつもクラスメイトを交えた日常回ってやっぱり良いものです。
最近は悟といろはの恋模様にお熱で鳴りを潜めていたところもある気もする初期のまゆの反応というか。可愛いユキを愛でる際のまゆのテンションの上がり方とか衣装作りに関しては貪欲で夢中になる姿勢とか。一方でまゆ以外にはツンな対応をするけど、大好きなまゆにお願いされたら断りきれずに良しとしてしまうユキの甘々なところとか。
久しぶりに猫組が中盤くらいまで見せていた特性というか魅力的なところを、久しぶりに見せてくれた感じがして個人的にとても嬉しかった。ユキも最近は打ち解けてまゆ以外の仲間内に対しては面倒見が良かったり甘さを見せてくれるようになったりしていたけど、やっぱり普段あまり交流しない相手には元来の猫ならではの特質が顔を覗かせたのか。ツンなユキ様もやはり良いものだと改めて。
中学の演劇コンクールで優勝する実力を持つわんにゃん中の演劇部員というのもあってか。軽快な掛け合いとノリの良さを如何なく発揮して、いろは達の会話に混ざる狐崎さんと狸原くんの存在感は光るものがあったと思います。狼達の過去に迫り彼らの過去に目を向け未来を見据えるにあたって、ともすれば暗くなってもおかしくないところを楽しい感じを残して描けたのも二人の存在に依るところは大きい。
クラスメイトの中では蟹江ちゃんと大熊ちゃんが出番多めで度々登場する機会があったけど、やっぱり他のクラスメイト達もそれぞれ動物の名を冠しアニマルタウンに暮らす一員としてですね。彼女らのような存在なくして本作は成り立たないということも改めて実感させられる次第です。個性派揃いのクラスなのです。
あとはガオウ様に一途かと思いきや意外と守備範囲の広いザクロ姐さんも面白かったです。悟くんに続いて狼の姿に扮した狐崎さんにも惹かれてしまうとは。その移り気なところも今回はコメディ要員として機能した感じはありますが、やはり一番はガオウ様であることは揺らがないはずなので。最後までガオウ様を慕うザクロさんでいて欲しい。