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劇場版アイカツ!10th STORY ~未来へのSTARWAY~ 感想

この道の先なら、きっと大丈夫――。

この道の先なら、きっと大丈夫――。

2022年7月公開の映画感想はこちら。

hisonobi.hatenablog.com

映画本編の感想

昨年の夏に公開された内容から今作の焦点はいちご達の卒業記念ライブになるのかなと漠然と思っていた自分がいました。実際にそこは軸になる部分でもあるし終盤にしっかりと描かれたわけですが、その前の合間に描かれた大人パートの描写が私の予想を遥かに上回るものであり、その大胆な構成と内容に良い意味でビックリさせられました。あれはシリーズをずっと追ってきた人ほど感じ入るものがある。

いちご、あおい、蘭。ソレイユ三人のこれまでとこれからのアイカツの軌跡。その重みと尊さを今までにないビターなテイストも交えて描き出しており、且つスターライト学園から巣立ち大人になっていく彼女たちの成長した姿と、勇気をもって各々が選択した夢と希望に溢れる道のり。それに対する前向きな取り組み方を従来のノリも交えて描いていて、新しいアイカツの境地を観た思いでもあります。

大スター宮いちごまつりの際に、いちごは観てくれた人が素敵な明日を迎えられるように。明日へ向かう為の活力を与えられるような存在になれたらという思いを抱いていましたが、今作で描かれた内容やテーマはそことも密接に繋がっていたと思います。例えこの先、それぞれが歩む道が分かたれたとしても、再会した時にもっと大きな喜びや楽しいことがあると思えるから今日という今を頑張れる。

スターライト学園の卒業を控えた時の選択。そして卒業から数年が経過した時に、再び人生の大きな岐路に立って新しい自分の姿を模索したり、新たなことに挑戦しようとする際に生じる不安や悩み、恐れといった現実の私たちでも当然のように湧き上がる感情に対し、いちご達は自らが歩んできたアイカツの軌跡を根拠として、挑戦することや前に踏み出すことの意義を、道筋を示してくれている。

それに対して大人になったいちごが蘭に言った「難しいし上手くいくって決まってることなんてないけどここまでは来られた」という台詞が非常に印象的で。この先の未来に何が待っているかは分からないけど、今までだって勇気を出して新しい世界に飛び込んだからこそ楽しいことや嬉しいことがいっぱいあって。そうして踏み出した先にあった数々の出会いや経験を経たから今の自分がいる。

あの時があったから今の自分がいる。今までもそうだっんだよね。普通の中学生だった星宮いちごが、トップアイドル神崎美月のライブを見て感情を揺さぶられ、親友のあおいに誘われる形でスターライトの編入試験を受けてアイドルの世界に飛び込んだことも人生の岐路にして選択だし、トライスターオーディションからのソレイユ結成の流れもそうだし、アメリカ行きを決めて広い世界に飛び出したときもそう。

テレビシリーズで描かれたいちごのアイカツの軌跡。いちごに限らず皆それぞれに自分の運命や自身が大きく変わる転機はあって、時に惑い時に恐れを抱きながらも歩み出したからこそ今があるのです。卒業記念ライブであかりが卒業生に向けての送辞の中で言った「星宮先輩がいなければ今私がここに立っていることはなかった」という台詞も全ては「未来向きの今」の大切さを伝えてくれている。

あかりジェネレーション、ひいてはアイドル大空あかりのアイカツの軌跡を象徴する楽曲『START DASH SENSATION』の中にある「あの日があって今が最高になる」というフレーズも、今この瞬間に勇気を出して踏み出し頑張ることで訪れる幸せな未来の有り様を訴えかけてくれている。テレビシリーズで描かれたいちご世代とあかり世代のアイカツの軌跡。それがあっての今作のメッセージ性なのだ。

この先だって、きっと大丈夫――。その台詞が説得力を伴って心に染み入るのも納得だし、数年後の成人したいちご達の姿を描いた上で、改めて最後に卒業記念ライブの詳細を描くという構成も、あの時があったから今の自分がいるというメッセージ性を、より鮮明に浮かび上がらせるための見せ方なのだと思えました。

大スター宮いちごまつりを始めとする歴代の劇場版と異なり、テレビシリーズが終わって少し時間が経過した今このタイミングでの公開というのもあって、対象が今の女児ではなく当時見ていて今まさに人生の節目を迎える年頃の人。あの時より少し歳を重ねて大人になった人たちを対象にしているというのは節々からも伝わってきていた。

それも相まって作中のいちご達と心情的にシンクロし、より物語とテーマに入り込むことが出来た側面は大いにあったのではなかろうか。長くなりましたが人生の大きな岐路を前に勇気をもって各々が選択した道のり。それに向き合う前向き且つ真剣な姿、スクリーンの前にいる自分達に語りかけてくれる内容と各キャラの台詞に、改めて明日へ向かう活力をもらいました。ありがとうアイカツ!10年経っても大好きな気持ちは今も変わらない!

予想を超えるインパクト!様々な感情が入り交じる未来の姿!

今回の映画の中で一番衝撃的だったのは、やはり22歳になったいちご達の未来の姿が描かれたことに尽きる。あおい姐さんはトレードマークでもあったサイドポニーから髪型が変わって大人びた姿になっているし、あおいが留学した後にいちごと蘭は同棲(ルームシェア)してるし、酔いどれユリカ様は可愛すぎるし、そのユリカ様を介抱するかえでとの空気感もまた絶妙だし、19歳になったらいちはもうらいちきゅんとか呼べないイケメンっぷりだし!

とまあ箇条書きにしただけでもオタクの妄想や願望が一つ公式によって正式に描かれた感もある濃密な描写で妄想が刺激されて無限の可能性が広がる大人パートでしたが、要所要所で発せられる台詞とか仕事に対する向き合い方とか、久しぶりに集まっての鍋パーティーで醸成される空気感が、確かな時間の経過を感じさせてくれてノスタルジックな雰囲気を伴い彼女たちが大人になったことを実感させてくれる。

あおいと美月の二人きりのやり取りも凄く印象的で。ありそうでなかなかなかった組み合わせだし、あおいに対する美月の呼称も変わっていたりね。何よりスターライト学園の外に出て誰よりも先んじて新しいことに挑戦し続けていたのは他でもない美月だったので。映画の内容的にもいちご達が辿ったアイカツの軌跡に多大な影響を与えていたことからも、やはり神崎美月の存在は大きいということも改めて痛感させられました。

あとはバーテンダー蘭ちゃんさんが作ったお酒をいちごと飲み交わすシーンは、あらゆる意味で万感の思いがこみ上げてきました。鍋パーティーの時にもお酒を飲んではいたけどスターライト学園時代とは異なり、お酒が交わることで、あの時よりも酸いも甘いも噛み締めてというか。人生のほろ苦さのようなものを味わいながらも、あの時と変わらない明るさや前向きさも同時に内包していて人としてもアイドルとしてもコクと深みが増していたように感じられたのが印象的でしたなぁ。

女児向けアニメとして始まったアイカツですが、その主要キャラの成長をここまで一緒に追いかけてお酒が飲める年齢まで達し、実際に劇中で飲むシーンに立ち会えることなんてそうそうないだけにですね。10年という歳月の重みを、この一連のシーンで焼き付けられた感覚でもあります。いや、解釈は分かれるかもしれないけど本当にここは見応えのあるシーンだったし、まだ見てない人には是非とも劇場で観ていただきたい!

個人的には19歳になったあのらいちとノエルちゃんは、あの未来時点で一体どうなってるんだ!?と気になって夜しか眠れていないのです。

楽曲・ライブパートについて

今回はまず序盤にもう一度コスモスの「星空のフロア」を振り返る形で披露していましたが、やっぱりいちごとあかりが並び立つステージの特別感は何度見ても凄まじい破壊力があり、それぞれの世代を牽引してきた二人のアイドルの集大成ライブが、これまでのアイカツの軌跡と積み重ねの上に成り立つ奇跡。あの日があって今が最高になることを体現する光景なのだと思い知らされる。

新規のライブパートに関しては卒業記念ライブに集約されていましたが、トライスター&ぽわぷりによる「Signalize!」を皮切りに、ルミナスの新曲「TRAVEL RIBBON」が先輩たちの巣立ちに華を添え、締めのソレイユによる新曲「MY STARWAY」が最高潮に高まった気持ちを更に盛り上げてくれていた。ルミナスの新曲も凄く良かったけど、やはりこの映画の内容を経ての「MY STARWAY」は感情をかき乱されて本当堪らんですね。

歌詞の一つ一つのフレーズが心に染み込んでくるし、明るさと切なさが同居したメロディーラインが、この先の未来に対する希望と不安が同居しているソレイユの三人の心情をダイレクトに反映してるように映るし。でも、やっぱり夢と希望に溢れるニュアンスの方が勝って楽曲を聞き終わったあとの心地よさといったらもうね。これも積み重ねてきた歳月の重みが成せるものなのだと思うよ。

あとはやはりスターライト学園の星宮いちご世代の卒業ということで、STAR☆ANISの面々が集結しているという点は見逃せないよね。学年の違う美月とさくらも、どちらもいちご世代との繋がりは深く彼女たちが積み重ねてきたアイカツの軌跡を語る上で欠かすことの出来ない存在ですし。もう一度STAR☆ANISのライブも見てみたかったな~。それは贅沢が過ぎるというものか。

最後に

凄く冗長になってしまったかもしれませんが、『劇場版アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~」を見た自分の所感でした。本当にこの10年の間ずっと自分の生活の中心にあったコンテンツですし、こうしていちご達のその先を見届けられたことに感謝しかないのです。10年の歳月って本当に凄くて自分もこの期間の中で人生の岐路に立つような選択をしなくてはならないことが少なからずありました。

誰にとっても多かれ少なかれそういうことはあったと思います。だからこそ上述したように今回の映画の対象は今どきの女児ではなく、テレビシリーズの放送当時に本作を見ていた子供で、今まさに人生で初めて岐路に立たされているような世代。作中のいちご達と同年代の人、もちろん大人であっても10年の歳月は立場や環境が変わるに十分な期間ですが、それ故に想定している対象が平時よりも高く設定されているように感じる。

だから映画の内容にも今までとは少しニュアンスの異なるビターな風味を感じられる作劇で、ノスタルジアを伴うのと共に未来のあり方や向き合い方を考えさせられる内容になっている。それがテレビシリーズや歴代の劇場版と趣を異にしている部分であり、アイカツのまた違った味わい深さを醸し出す要因にもなっていたのかなと思った次第です。

もちろん従来通りの明るさや前向きさは健在なのですが、作中キャラの心身の成長に伴い人としての深みが増し、より幅広いものの捉え方や考え方をする姿を見ることも出来たので。時間が経過し視聴者側も大人になったからこそ色々な意味で考えさせられる内容でした。

あと今作では『大スター宮いちごまつり』や『ねらわれた魔法のアイカツ!カード』のように、オールスター大集合といったようなお祭り感は薄めで、あくまでも主題はスターライト学園を巣立ついちご達の未来に対する向き合い方と選択した道のりにある。故に登場はしているけどドリアカ勢や、ルミナスを除くあかり世代の他のアイドルには主だった台詞や出番がなく、姿だけの出演に留められているのも一つ注意点と言えるだろうか。

ただ、それは本作のコンセプトというかテーマを考えれば致し方ない面もあるだろう。一方でいちご達が辿ったアイカツの軌跡の位置付けが大切なだけに、最序盤でいちごのファンになった太田くんやユリカのファンのちまき、大スター宮いちごまつりで輝きのエチュードを手掛け今作でもソレイユの新曲作りに携わってくれた花音さん等々。

数え切れないくらいの沢山の人達との出会いがあって、その人達に支えられながら積み重ねてきた多くの経験や時間の重みを感じられる作りにもなっていた。そして、時には自分を大きく変えようとしたり今までと異なる道を選択することの意義が描かれる一方で、その人達との繋がりから時間が経った今も変わらないものが確かにあることを感じさせてくれたのが嬉しかった。

アイカツをずっと見てきた人は勿論ですが、初代アイカツを見ていたけどその後どこかのタイミングで離れた人にこそ是非とも観てもらいたい映画でした。これからも色々な岐路に立たされ選択しなければならないことはあるだろうが、これまでもこれからもアイカツが好きであることは変わらない!ありがとうアイカツ!